心に花の咲くほうに
いしいゆうじ
本棚の一番高いところには、
まるで青春のバリケードのように並んだ本たちが、
引越しのたびに迷いながら、結局手放せなかった本たちでした。
つま先立ちで伸ばした僕の指先に挙げたものは、
見覚えのない一枚の絵葉書だったのです。
いつからそこにあったのか・・・?
見覚えのないものを思い出せるはずもなく、
僕は記憶を追うことをやめ、
何も書かれていない絵葉書のスペースに、
ふと、浮かんだ言葉を綴ってみました。
「いつかまた、お会いしませんか・・・?」
書きながら思い出したのか、思い出したから書いたのか、
いつまでも懐かしい人・・・。
記憶の電話番号を、
僕ははがきに入れてみたのです。
そして僕は、何事もなかったように、
また、探し物を続けました。
閉じる